アンケートではつかみきれない接客に対する客の本音

接客を受ける側から見た接客です。あなたのそのスペシャルな接客。受け手はいったいどう見ているのか客の立場から見た接客について語ります。

ブロガー高島祐介

いつもブログをお読みくださりありがとうございます。今回の記事は【組み合わせ】です。お読みいただけるとお気づきになられるとは思うのですが、いつもの感じと少しニュアンスが違っております。実はこれ私が現在執筆中の小説の中に登場するブログなんです。主人公の高島祐介がブログを書いているという設定です。高島祐介は自分の実力を自分の実力以上に過信しております。俺って何でも知ってるぜという雰囲気でブログを書いております。

 

皆様におかれましてはそういう事ですのでどうぞ気分を害さないで頂きたいです。そのまま掲載しても良かったのですが何やねんこいつ偉そうやなとわずか3つ目の記事でみなさまに嫌われるのもいやだったので説明を加えました。お手数おかけしますがよろしくお願いします。

 

本日入荷したてのネタを存分にお楽しみくださいませ。では。

 

【組み合わせ】

 

 典型的なマニュアル店。接客自体に全く問題はない。お客様に対する応対は百点で非の打ち所がない。この応対なら客からのクレームは皆無合格点だ。ただしそれ以上でも以下でもない。一転もし俺がこの店に来るかと言われたら絶対に来ない。慇懃すぎて感情がなさすぎてまるでアンドロイド。お店とのやりとりも含めて食事を楽しむ俺には物足りなすぎる。私と同じ考えの人も多いだろうと思う。その人たちはここはやめた方が無難。ストレスが溜まるだけだ。

「いらっしゃいませ」

私がカウンターでケーキセットのケーキを半分くらい食べ終えたときに六十代後半の女性が買い物帰りなのかスーパーの白いビニール袋を左手に持って入ってきた。上部に入れられたキャベツと一リットル紙パック入りの低脂肪ミルクを背負った二個パックのリンゴが白い袋を中から押し広げそこだけいびつに膨らんでいる。今日の食後のデザートなのかおじいさんと一緒に食べるのだろうかそれとも一人で食べるのだろうか。

 カウンター七席と二人がけのテーブル二つの狭い店舗。駅のガード下にある喫茶店にしては比較的広めとも言えるが、このガード下にあるテナントの平均的なサイズだ。私は入って左手の端の席に座っていた。この女性が入り口に立てかけてある看板をしばらく見ていたのは知っていた。左側の壁に体を半身にしてもたれていた私は彼女を目線のすみに捕らえていた。

 入り口からカウンターまで六歩ほどでたどり着く。女性の歩幅は私の八割程度、女性は七歩半でカウンターにたどり着く。アイドルタイムで私以外の客がいない。店内を一瞥した彼女は迷うことなく右端のカウンター席を目指した。そとに立てかけていたのはこの店の人気メニュー。看板をしばらく眺めた後入ってきた女性はオーダーを決めていたのか入り口から三歩進んだところで声を出した。

「外のやつちょうだい」

「はい?」

と言った後アンドロイド女子はそれがオーダーと気付いたのか、看板に書いてあるお薦めメニューのオーダーだと察したようだ。少し評価を変えないといけない。彼女がアンドロイドなら外のやつという言葉に反応できないだろう。その抽象的な言葉をオーダーと瞬時にとらえた勘の良さは評価に値する。ところがその評価もそこまでだった。私は再び彼女をアンドロイドに戻す評価をすることとなった。永遠ともやりとりが始まった。

 女性の外のやつという言葉がオーダーだと察したアンドロイドは女性がカウンターにたどりつき椅子に手をかけたのを待って水とおしぼりを彼女が手をかけた椅子の前にあるカウンターの上に置いて

「天津飯とラーメンでよろしいですか」

と確認した。

「て、天津飯やったかいなあ。外のやつでええわ」

「天津飯でよろしかったですね」

アンドロイドは再度確認した。私はここで仮説を立てた。仮説をたてるほどたいそうなことでもなく誰でも察しがつくのだが、おそらくこのお薦めメニューは何らかのセット。手たとえばそれがラーメンセットだとしたらセットにつくご飯ものが選べるのだ。だからアンドロイドは二回も確認したのだと思った。そうでないと合点がいかない。そういった仮説をたてて私は継続観察した。

「外のやつよ、天津飯やったかなあ、あの外のやつよ」

「天津飯ですね」

「ああ?なんでもええから外のやつ、その天津飯」

「焼きめしもございますが」

「焼きめし?天津飯ちゃうのか」

「セットで焼きめしか天津飯を選ぶことができます」

先言えよ、と心の中で突っ込んだのは私だった。やはり仮説は正しかった。アンドロイドはきっとマニュアルにのっとって応対したのだろう。間違ってない百点だ。ただしそれはマニュアルの使用に対しての評価。接客として見た場合五十点だろう。無駄が多すぎる。

 私ならきっとこうしたと思う。

 外のやつちょうだいって入ってきた女性のこの言葉は瞬時にオーダーであることがわかる。彼女が看板の前に佇んでしばらく見ていたのを見ていたからだ。それがオーダーであることがわかったら直ちにこの女性の分析に入る。まずは常連であるかどうか。常連ならメニューに精通しこの店のシステムを何となくとらえていると言うことがわかる。それを見極める。入った瞬間にきょろきょろして店内を確認した様子からこの店は彼女にとって初めての訪問であるということを予想する。そしてこういう、

「お客様天津飯のセットでよろしいでしょうか。外の看板に掲載していたのは天津飯のセットでございます。天津飯のかわりにライスか焼きめしをおつけすることができます。つまりラーメンと天津飯かラーメンと焼きめしかラーメンとご飯かを選択できます。どれがでよろしいですか」

とする。

 相手がどういう状況で何を望んでいるかを察すればワンランク上の接客ができるし、双方にとって無駄とも思えるやりとりを省略することができる。ほんの少しでいい相手のおかれている状況は相手は何を思ってるのという部分にあなたの気持ちを向ければマニュアル接客が生きてくるのではないかと思う。

 

 

 

 

フレッシュなし

 

「ホットコーヒーお願いします」
「ブレンドですね、フレッシュはおつけしますか」
「結構です」
結構ですと言うのは必要ないという意味なのだがスタッフは若い男の子、おそらく大学生のアルバイト。私の使う古びた日本語が通用しない可能性があるのでジェスチャーをつけた。必要ないというのは伝わった。いらないと答えたら分かりやすいのだがそれではあまりにも語尾が強すぎる。

私が悪いのだ。彼が水をテーブルの上に置いた瞬間にオーダーしたから悪いのだ。もう少し待てば良かったのだ。注文用の端末をポケットから出すのを待てばよかった。オーダーを聞いて水を置き終わった彼はエプロンの右ポケットからおもむろに端末を取り出した。ここで私は心の中で思い切り念じた。どうかもう一回オーダーを聞かないでくれ。神様お願いします。どうかもう一度オーダーする罪を私に与えないでください。

高田君は、名札をつけていたからわかったのだが高田君は左手の手のひらに端末を置いた。そしてふたを開けた。最後にもう一度お願いした神様おねがいします。
「ブレンドコーヒーでよろしかったですか」
「はい」
確認しないと打ってはいけないルールなのか。きっとそうなんだ。でもこれ俺が悪いんだ高田君が水を置いて端末を開くまで待つべきだったんだ。日頃の行いも悪いので神様も許してくれなかった。私のはいと言う返事を聞いて端末に入力した。
「フレッシュなしブレンドでよろしかったですか」
高田君が今まで聞いたことが一度もない言葉を発した。フレッシュは必要ないとのオーダーはフレッシュなしコーヒーという代物になるのか。驚いた。一瞬うっとなったがはいと答えた。

入って日が浅いのだろう。画面からフレッシュなしブレンドを、そんなボタンが存在するのかわからないのだが探し出して満足そうに押した。
「モーニングはおつけしますか」
「はい、お願いします」
イライラを表情に出してはいけない。私はゆっくりと丁寧に笑顔で答えた。すこし慇懃になったかと思ったか大丈夫だ高田君は画面に熱中してる。オーダーを終えた時点で私はもういちどお願いした。今度は仏様にお願いした。どうかオーダーの確認をしないでおくれ。このお店ではオーダーの確認をするのを私は知っている。だけど今回私とあなたで交わしたやりとりではもうすでに2回オーダーを行っている。それを確認とみてくれないか。もう充分ではないかどうか私をそろそろ自由にしてくれ。仏様お願いします。
「ご注文を確認させていただきます」
やっぱりなあるよなマニュアルやもんなそして高田君、あなたはまだ新人だもんな悪くない悪いのは俺だ。仏様にも無理言いまして申し訳ありません。
「フレッシュなしブレンドにモーニングセットでよろしいですか」
フレッシュなしブレンドって言われるとなんか思い切り違和感があり自分が頼んだものと違う感じがしてしかたないのだがおそらくあってるだろう。
「はい、間違いありません」
と犯罪者が罪状認否するかのように答えた。

一連の取り調べが終わり私はほっと肩の荷を下ろしパソコンを取り出し仕事を始めた。高田君とはちがうスタッフの今度は女の子がコーヒーを持ってきてくれた。この子はベテランだろう。作業をしている私の邪魔にならないようにコーヒーをパソコンの向こう側にモニターの陰に置いてくれた。
「ブレンドコーヒーお待たせしました。こっち側に置いておきますね」
と言ってくれた。私は目線をキーボードからあげ彼女を見つめお礼を言った。

記事が一段落ついたので私はコーヒーを飲もうとパソコンの裏をのぞきソーサーに乗せられたコーヒーを引き寄せようとした。するとなんとフレッシュが銀色のフレッシュ入れに入って堂々と立ちはだかっていた。

えー、と心の中で突っ込んだ。あれだけ確認したのにフレッシュなしブレンドコーヒーというオーダーであってるのか思い切り不安になったのに。高田はいったい何のボタンを押したのだ。これはいったいどういう名前になるのだ。フレッシュ入りブレンドコーヒーになるのか。いやそれはおかしいフレッシュ入ってないものな。フレッシュ付きか。

高田、頼むわ。これでフレッシュがついてなかったら俺は絶対に記事にしなかったよ。あれだけフレッシュなしって確認したのに、しかも新種の名前までつけてたのに、一番最初にフレッシュだぜって目に飛び込んできたらせざるをえないでしょ。この記事書くのに20分も要してしまった。高田、また来るわ。成長したあなたにもう一度フレッシュなしブレンドを頼むために。
 

うどん屋



お気に入りのうどん屋にはいる。店主はいつものように客用のテーブルに座りスポーツを新聞を広げテレビを見ている。入り口の引き戸をあけると備え付けてある鐘がなる、ガランゴロン。その音に反応した店主が両手に持ったスポーツ新聞を少し下に下げ新聞の上からのぞき込むように音の鳴るほうを見る。にらまれた私は頭を下げる。

店主はいらっしゃいも言わず面倒くさそうに新聞をたたみ立ち上がる。給水器のレバーを空のコップで押す。ガラガラと音を立て氷入りの水が落ちてくる。左手にコップを持ち右手で温蔵庫をあけおしぼりを取り私に近づいてくる。私は入り口に近いテーブル席にすでに着席している。

コップとおしぼりをおもむろにテーブルに置き右斜め上方からメニューをとり何を食べるか決めかねている私に熱い視線をおそらく注いでいる。その重圧に耐えられなくなった私は結局いつも通り注文する。
「五目定食おねがいします」
来ならここで店主は私に出会って初めての言葉を口にする、はいと。ところがその日は返事をしない。ついに返事もしなくなったのかと思って水を飲もうとコップに手を伸ばすと厨房に向かって3歩歩いたところで立ち止まり振り返りその日初めての声をだした。
「かやくご飯が売り切れたからおにぎりになるけどいい」
おにぎりかうどんも白いから白づくしやなあと思いながらないのなら仕方ないと観念し「はいそれでおねがいします」
店主は返事もせず伝票に注文を書き始めた。注文は通っているようだ。そしてこのあともうひとつ必ず出る声がある私はそれを待った
「うどん茹でるのに10分くらいかかるけど」
「はい大丈夫です」
きた。その言葉はいつも通りに発してくれた。店主がその声を発生している感じが何とも言えなくて私は好きなのだ。少しおびえながら少し怒りながら少し開き直りながらその声をだす。

おそらくこの10分を長いとし怒るお客さんがいるのだろう。うどんなんてすぐ出てくると思っている人が多いのだ。実は違う。しっかり練った腰の強い讃岐系のうどんはゆでるのに10分くらいかかる。それくらいの時間は必要なのだ。わたしなんかは逆にそう言われるとうれしい。腰の強いうどんを食べれるのなら10分だって20分だって待つ。ところがそういう客が少ないのだろう店主の表情にあらわれている。

だから私は目一杯の笑顔で答える。それで店主の気持ちが少し楽になるからだ。本当なら10分くらい全然平気ですよ。それくらいはかかりますものねくらい付け足したいほどだ。ところが私がそれをやると途端にうそくさくなる。だからやめておく。

店主が不機嫌なのはうどん茹でるのに10分かかるのを受け入れない客が多いからと言うだけではない。おそらくようやく落ち着いたところに私がきたからだと思う。実はこの店ものすごい繁盛店でお昼時はまず待たないと座れない。サラリーマンやOLで一杯になる。そしてその後はその混雑を避けようとする主婦や時間をずらして昼休みをとれる営業マンで一杯になる。だから12時前から14時過ぎまでずっと客が途切れない。

それを知っているフリーな私はその後に行くのだ。14時半頃である。昼の戦争をおえた主人がほっとしているときだ。アイドルタイムと言われる飲食店が暇な時間帯。この時間帯は一時閉店としている店も多い。昼の部と夜の部を分けて15時から17時くらいまでのあいだはのれんを下ろしていたりする。ところがこのうどん屋はそれをやらない。朝から晩まで営業している。だったらもうちょっといらっしゃいと歓迎してくれたらよいような気がするが一切ない

そんなに嫌なら閉めたらいいのにと思うがそうでもないらしい。ほとんど口をつかないがうどんは作ってくれる。職人肌のおやじさん、うどんはしっかり作る。おもてなしは皆無だが私が通う理由は味。ものすごく上手い。今回はかやくご飯ではなく残念だったが代わりに作ってくれたおにぎりも抜群に上手かった。

基本的にわたしはおもてなしがものすごくすき。人一倍うるさいと言ってもよいだろう。本来ならこういう対応をする店にはどんなに上手くても行かない。ところがそこのうどん屋にはもうずっと通っている。ものすごく上手いというのもあるがもうひとつある。

この無愛想な店主。最後に必ず発する言葉がある。
「長い間待たせて悪かったね」
この言葉にやられてしまう。くそ愛想もない親父にやられる。またきっと行きたくなる。お、も、て、な、し、にも色々ある。