アンケートではつかみきれない接客に対する客の本音

接客を受ける側から見た接客です。あなたのそのスペシャルな接客。受け手はいったいどう見ているのか客の立場から見た接客について語ります。

フレッシュなし

 

「ホットコーヒーお願いします」
「ブレンドですね、フレッシュはおつけしますか」
「結構です」
結構ですと言うのは必要ないという意味なのだがスタッフは若い男の子、おそらく大学生のアルバイト。私の使う古びた日本語が通用しない可能性があるのでジェスチャーをつけた。必要ないというのは伝わった。いらないと答えたら分かりやすいのだがそれではあまりにも語尾が強すぎる。

私が悪いのだ。彼が水をテーブルの上に置いた瞬間にオーダーしたから悪いのだ。もう少し待てば良かったのだ。注文用の端末をポケットから出すのを待てばよかった。オーダーを聞いて水を置き終わった彼はエプロンの右ポケットからおもむろに端末を取り出した。ここで私は心の中で思い切り念じた。どうかもう一回オーダーを聞かないでくれ。神様お願いします。どうかもう一度オーダーする罪を私に与えないでください。

高田君は、名札をつけていたからわかったのだが高田君は左手の手のひらに端末を置いた。そしてふたを開けた。最後にもう一度お願いした神様おねがいします。
「ブレンドコーヒーでよろしかったですか」
「はい」
確認しないと打ってはいけないルールなのか。きっとそうなんだ。でもこれ俺が悪いんだ高田君が水を置いて端末を開くまで待つべきだったんだ。日頃の行いも悪いので神様も許してくれなかった。私のはいと言う返事を聞いて端末に入力した。
「フレッシュなしブレンドでよろしかったですか」
高田君が今まで聞いたことが一度もない言葉を発した。フレッシュは必要ないとのオーダーはフレッシュなしコーヒーという代物になるのか。驚いた。一瞬うっとなったがはいと答えた。

入って日が浅いのだろう。画面からフレッシュなしブレンドを、そんなボタンが存在するのかわからないのだが探し出して満足そうに押した。
「モーニングはおつけしますか」
「はい、お願いします」
イライラを表情に出してはいけない。私はゆっくりと丁寧に笑顔で答えた。すこし慇懃になったかと思ったか大丈夫だ高田君は画面に熱中してる。オーダーを終えた時点で私はもういちどお願いした。今度は仏様にお願いした。どうかオーダーの確認をしないでおくれ。このお店ではオーダーの確認をするのを私は知っている。だけど今回私とあなたで交わしたやりとりではもうすでに2回オーダーを行っている。それを確認とみてくれないか。もう充分ではないかどうか私をそろそろ自由にしてくれ。仏様お願いします。
「ご注文を確認させていただきます」
やっぱりなあるよなマニュアルやもんなそして高田君、あなたはまだ新人だもんな悪くない悪いのは俺だ。仏様にも無理言いまして申し訳ありません。
「フレッシュなしブレンドにモーニングセットでよろしいですか」
フレッシュなしブレンドって言われるとなんか思い切り違和感があり自分が頼んだものと違う感じがしてしかたないのだがおそらくあってるだろう。
「はい、間違いありません」
と犯罪者が罪状認否するかのように答えた。

一連の取り調べが終わり私はほっと肩の荷を下ろしパソコンを取り出し仕事を始めた。高田君とはちがうスタッフの今度は女の子がコーヒーを持ってきてくれた。この子はベテランだろう。作業をしている私の邪魔にならないようにコーヒーをパソコンの向こう側にモニターの陰に置いてくれた。
「ブレンドコーヒーお待たせしました。こっち側に置いておきますね」
と言ってくれた。私は目線をキーボードからあげ彼女を見つめお礼を言った。

記事が一段落ついたので私はコーヒーを飲もうとパソコンの裏をのぞきソーサーに乗せられたコーヒーを引き寄せようとした。するとなんとフレッシュが銀色のフレッシュ入れに入って堂々と立ちはだかっていた。

えー、と心の中で突っ込んだ。あれだけ確認したのにフレッシュなしブレンドコーヒーというオーダーであってるのか思い切り不安になったのに。高田はいったい何のボタンを押したのだ。これはいったいどういう名前になるのだ。フレッシュ入りブレンドコーヒーになるのか。いやそれはおかしいフレッシュ入ってないものな。フレッシュ付きか。

高田、頼むわ。これでフレッシュがついてなかったら俺は絶対に記事にしなかったよ。あれだけフレッシュなしって確認したのに、しかも新種の名前までつけてたのに、一番最初にフレッシュだぜって目に飛び込んできたらせざるをえないでしょ。この記事書くのに20分も要してしまった。高田、また来るわ。成長したあなたにもう一度フレッシュなしブレンドを頼むために。